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最高裁判所第一小法廷 昭和38年(オ)153号 判決 1967年4月27日

上告人

株式会社日進電機工業所

右代表者

星山生寿

右訴訟代理人

豊蔵利忠

被上告人

桜井才治郎

右訴訟代理人

棗田愛

主文

原判決中、別紙約束手形目録(3)、(4)、(5)記載の約束手形に基づく約束手形金請求に関する第一審判決に対する控訴を棄却した部分を破棄する。

右破棄にかかる部分について本件を大阪高等裁判所に差し戻す。

本件その余の上告を棄却する。

前項の部分に関する上告費用は上告人の負担とする。

理由

上告代理人豊蔵利忠の上告理由について。

まず原判決中、本件約束手形のうち別紙約束手形目録(1)、(2)記載の約束手形各一通(以下本件(1)、(2)の約束手形という。)に基づく請求に対する判決部分について審按する。

上告会社と訴外東洋自動機械株式会社とは、もともと取引関係はなかつたのであるが、その代表取締役が懇意であつたところから、互いに融通のため、上告会社と訴外会社との間に相互に満期を数日相違させた同金額の約束手形(双方の手形がそれぞれ同一金額、または、一方の手形金と他方の数通の手形金の合計とが同額)を交換的に振出し交付していたが、本件約束手形(別紙約束手形目録(1)ないし(5)の約束手形各一通)もまた右のごとき交換手形の一であることが認められ、かつ本件(1)、(2)の約束手形については、それと交換的に振出された上告会社を受取人とする訴外会社振出の約束手形は上告会社により金融に供され、しかも、この訴外会社振出の約束手形が決済されたと認むべきことは原判決の適法に確定するところであるから、右認定に基づき、上告会社主張の所論交換手形に関する抗弁を排斥し、本件(1)、(2)の約束手形に基づく被上告人の請求を認容すべきものとする原判決の判断は正当である。

したがつて、原判決中、本件(1)、(2)の約束手形に基づく被上告人の約束手形金請求に関する第一審判決に対する控訴を棄却した原判決部分に所論の違法はなく、論旨は採るを得ない。

つぎに、原判決中、別紙約束手形目録(3)ないし(5)記載の約束手形各一通(以下本件(3)ないし(5)の約束手形という。)に基づく請求に対する判決部分について審按する。

思うに、甲、乙両当事者が、相手方を受取人とし、交換的に同金額の約束手形を、その受取人に金融を得させるためのいわゆる融通手形として、振出し(いわゆる交換手形、或いは書合手形)、各自が振出した約束手形はそれぞれ振出人において支払をするが、もし乙が乙振出の約束手形の支払をしなければ、甲において甲振出の約束手形の支払をしない旨約定した場合、乙が乙振出の約束手形の支払をしなかつたときは、甲は、交換手形に関する右約定および乙振出の約束手形の不渡り、或いは、不渡りになるべきことを知りながら、甲振出の約束手形を取得した者に対し、いわゆる悪意の抗弁をもつて対抗することができるものと解するのが相当である。

今、本件(3)ないし(5)の約束手形について見るに、上告会社は、訴外東洋自動機械株式会社との間において、訴外会社振出の約束手形と右約束手形を、融通のため交換的に振出し、かつ、上告会社と訴外会社間には、訴外会社がその振出した約束手形を手払つたときは上告会社も本件(3)ないし(5)の約束手形の支払をなし、もし訴外会社がその振出した約束手形の支払をしないときは、上告会社はその振出した本件(3)ないし(5)の約束手形の支払をしない旨の特約が存するところ、訴外会社において、その振出した約束手形の支払をしないから、上告人は、右特約をもつて悪意の手形所持人である被上告人に対し本件(3)ないし(5)の約束手形の支払を拒む旨抗弁していることは、本件記録に徴し明らかである。そこで、原審は、上告会社の右抗弁について、右に説示した各点につき審理を尽くし、右抗弁が認められるものであるか否かを判断すべきものであるところ、原判決は、前記のとおり、本件約束手形は、上告会社と訴外会社が互いに融通のため満期を数日ずらして同金額の約束手形を交換的に振出した交換手形である旨、本件(3)ないし(5)の約束手形をもつて先に説示した交換手形にあたると認めるに足る事実関係を認定しながら、右のごとき交換手形もまた融通手形と解するに妨げなく、これを振出した上告会社は、被融通者以外の手形所持人に対しては、それが期限後裏書の場合を除き、融通手形であることを理由に、いわゆる悪意の抗弁をもつて対抗することができないものというべき旨判示し、上告会社の右抗弁を排斥したものであつて、上告会社主張の右抗弁に対する原判決の判断には、いわゆる交換手形に関する法律の解釈をあやまり、審理不尽の違法があるものというべく、この点論旨は理由がある。

よつて、原判決中、本件(3)ないし(5)の約束手形に基づく約束手形金請求に関する第一審判決に対する控訴を棄却した部分を破棄し、さらに審理を尽くさせるため右部分を原審に差し戻すこととし、その余の部分につき本件上告を棄却すべきものとし、民訴法四〇七条一項、三九六条、三八四条、九五条、八九条に従い、裁判官全員の一致により、主文のとおり判決する。(入江俊郎 長部謹吾 松田二郎 岩田誠)

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